100歳の今も現役医師として活躍し、さらに年間100回以上もの講演をこなし、夜遅くまで原稿の執筆もなさるという多忙な毎日を送る日野原先生の考える健康とは? 「健康でいるためにも部屋選びは大切」と考える中川さんも、先生のようにずっと現役でお仕事を続けたいということで、お話をしていただきました。 (取材:2011.8)
中川さん/私は編集者として、ずっと住宅にかかわる原稿を書いたりしてきたのですが、多忙の余り、27歳のときに腎臓を壊し、ネフローゼ症候群を発症しました。
以来、長く病と付き合っています。一時強いステロイド剤を使っていたのですが、7,8年たった頃にいきなり爆発的に太りまして、今より10数キロ以上体重がありました。また平衡感覚をなくしたり、いろいろ副作用があったのですが、そのとき「仕事も大事だけど、健康についてもっと考えなくてはいけない」と思ったのです
日野原先生/私も10歳のときに急性腎炎をやっています。治療法は安静しかなくて、数週間を寝て過ごしました。運動も止められて、つらかったですね。
みかねた母がピアノを勧めてくれて、私はピアノを習い始めました。それ以来、合唱の指揮をしたり、作曲をしたりするようになり、舞台に立つこともあります。今や、音楽は私の人生の最大の楽しみですが、その楽しみと出会えたのは病気になったおかげです。
また、京都大学医学部の学生だった22歳のときにも肺結核と胸膜炎をやりまして、その頃はまだ結核の薬がない時代だったから、1年間安静で寝たきりでした。その2つの病気を患ったことで、病むことはとてもつらいものだと思ったのですが、この経験が内科医になってから、非常に役立ちました。患者さんの辛さ、痛みが良くわかるようになったのです。だから、病むことのなかにも学びはあります。
中川さん/二度の大病の経験が現場で生かされているのですね。
日野原先生/そう、患者さんの心に寄り添う医療をと考え、それが実践できるようになったのは、この時の病気の経験のおかげです。
中川さん/ところで、このところ、健康について様々な本、雑誌が出ていますが、自分の経験から思ったことがあるんです。いろんなところで「健康が大事」と言われていますが、意外にそのために、何をしなくてはいけないかについて正しい情報がないなあと…。
私は退院するとき「今後は塩分を制限しなさい」と言われ、そこで初めて成分表を見て、カロリー計算をするとか、食品の塩分量を知るなどしたのですが、全く知らないことばかり。どうして今まで誰もこういうことを教えてくれなかったんだろう、と思ったんですね。
日野原先生/そうね。みんな「体に気をつけなさい」と言うばかりでねえ。
中川さん/そうなんです。昔は情報が少なかったし、でも今は逆にあり過ぎて、どれが正しいのかわからないんです。
日野原先生/それは自分で選択するのです。
中川さん/どうやって選択すればいいのでしょう? 何が正しいのかという判断が…。
日野原先生/「病気になったら、お医者さんが処方してくれる薬を飲めばいい、注射を打ってもらえばいい、ビタミン剤を飲めばいい」と多くの人が思っているようなんだけれど、それよりも本当は、どういう生活をしたらいいかとか、どういう食事の摂り方をしたらいいのかとか、運動はどうやればいいのかとか、そういう部分のコントロールが大切なんです。
実際のところ、今の保険診療制度ではなかなかむつかしい部分もあるのですけどね。
ただひとつ言えるのは、専門医として世間的に有名な先生というより、もっと自分のライフスタイルや健康状態をよく知っている先生、つまり主治医を持つ、ということが大切だと思います。自分に合う先生を自分で探すことが大事ですね。
中川さん/先生はお医者さまでいらっしゃるので、ご自身の健康は自己管理なのでしょうか?
日野原先生/そう。まず朝起きて牛乳を一杯、この中に大豆レシチンのサプリメントを大さじ一杯入れて飲みます。あとは果物ジュース、この中にはオリーブオイル大さじ1杯(15cc)を入れます。あとはバナナ、これだけ。 お昼は牛乳1本にクッキー4個。お昼は忙しくて摂れないこともありますが、仕事に集中していると空腹感を感じません。昼間に家にいる主婦の方も、何かに集中するようにすれば、間食が減り、太りにくくなるのではないでしょうか?
夕食はたんぱく質を十分摂るように心がけています。それと大量に緑黄色野菜を食べます。
健康に必要なのは日頃の生活の仕方、何を食べるか、そしてどのように運動するか、どのように休息するか、そしてどのように自分に適した職業を選び、いきがいを感じるか、そういうことなのだと思います。
ただ、それを実践し、100歳まで現役で働いてきた人のデータは存在しません。調査されているのは65歳までです。
中川さん/日本は世界でもこれだけ長寿国になり、65歳をはるかに越えて生きる人も多いのに、なぜ長生きになったかについては、調査されていないということですね。
日野原先生/そうです。でも、いくつか分かっていることもあります。
たとえば、日本の中でも特に沖縄の人が長寿だということで、それを分析したら、やはり食べるものが一番重要だ、ということがわかりました。ところがその沖縄の人々も4,5年前までは男女ともに世界中でトップだったのに、男性はこの数年で24位に下がった。その原因は肥満です。それも外見からは分かりにくい、内臓に脂肪がたまるタイプです。そこで、男性は腹囲が85センチ、女性は90センチまでという、健康維持、長寿のためのひとつの目安ができたのです。理想は腹囲と体重を、30歳のときの数値で維持することです。
中川さん/30歳というのは、どういう理由なのですか?
日野原先生/30歳で成長が全部止まるからです。
中川さん/それでは先生も、30歳をキープなさっている?
日野原先生/私は30歳のときに身長が168センチで体重が62キロでした。今は身長は160センチになっていますから、体重は60から62キロくらいでちょうどバランスがとれています。それを維持するために、年齢ごとに食事の摂取カロリーを決めてきました。 成人男子が1日に必要とするのは2,000キロカロリーですが、100歳の私は1日1,300キロカロリーと決めています。ただ仕事柄パーティには出なくてはいけない。特に外国へ行くとパーティが続くので食べない訳にもいかず、どうしてもカロリーオーバーになることが多く、そういうときは帰りの飛行機では絶食して、帰国後の1週間で思い切って減量します。すると2週間目には、体重は元通りになります。
中川さん/女性からすると、長生きはしたいけど美しくもあり続けたいということがありますが、それには何に気をつければいいですか?
日野原先生/それにはビタミンとオリーブオイルのような、植物性の良質な脂肪です。私はオリーブオイルを毎日摂っているから、ほら、皺はないし、手はやわらかいでしょ?
中川さん/本当ですね、先生の手、柔らかい! 唇もピンクで。
日野原先生/口紅、塗ってないよ(笑)。これはオリーブオイルのおかげ。血管や皮膚を滑らかにするのです。 あと大事なのは、食事は良く噛んで食べること。30回は噛んで。すると、口の中で小さくなるから胃に負担がかからないのです。最初は慣れないでしょうから回数を数える。すると自然に噛めるようになります。寝たきりの人でも良く噛ませることが大切ですね。
中川さん/わかりました。参考にさせていただきます。
- 【プロフィール】 聖路加国際病院理事長・同名誉院長 日野原重明先生
- 1911年山口県生まれ。京都大学医学部卒業、同大学院修了。1941年 年聖路加国際病院内科医に赴任。1951年アメリカエモリー大学に留学。1973年(財)ライフ・プランニング・センター創設。予防医学の重要性を指摘し成人病に代わる「生活習慣病」という言葉を生み出す。2000年「新老人の会」結成。2005年には文化勲章を受章。著書に『生きかた上手』『いのちの絆―ストレスに負けない生き方―』など多数。
- 【プロフィール】 住まい選びアドバイザー/中川寛子さん
- 住宅を中心とした編集業務、セミナーなどを通じて、住まいのあり方、買い方、街選びや暮らしについて提案を行う㈱東京情報堂代表、住まい選びアドバイザー。20代後半に難病を得たことから住まいと健康、美容の関係を個人的なテーマとしても考え続けている。