羽毛ふとん研究室
羽毛博士翔Kakeru
vol. 8羽毛大解剖~キルトの秘密
羽毛ふとんにはマス目がありキルト状になっていることは、みなさまご存じだと思います。しかしキルトには重要な意味があり、さまざまな改良が加えられてきたことは、あまり知られていないのではないでしょうか。そこで今回は、羽毛ふとんのキルトに注目してみましょう。
キルトの役目とは?
羽毛ふとんの主役であるダウンは、ダウンボールと呼ばれる一つひとつ独立した繊維で、しかも極めて軽いものです。そのため入れ物となるがわ生地にマス目がないと、寝返りなどによって羽毛が偏ってしまいます。また、キルトの大きさやデザイン・構造によって、保温性や体に掛けた時のフィット感に違いが出てくるのです。
表面に見えるマス目と、おふとんの内部に隠されているマチの構造。この二つをどんなデザインにすべきか? どうすれば羽毛の保温性をさらに生かすことができるか? メーカーの開発力・設計力が試される重要なポイントなのです。
キルトデザインいろいろ
こんなに進化!東洋羽毛のキルト!
日本における羽毛ふとんの歴史は、ヨーロッパからの輸入品が始まりです。そこで国内生産が始まった当初は、キルトも何箇所か留めたくらいのヨーロッパ製品をアレンジしたものでした。
しかしその後、東洋羽毛ではキルトに独自の工夫を加え、試行錯誤を繰り返しながら、より良い羽毛ふとんを目指して製品づくりを進めてきました。具体的にはどんな進化を遂げているのでしょうか。代表的なキルトを見てみましょう。
まだマチがなく、表裏のがわ生地を一緒に縫い合わせる「縫いつぶし」で、縫い目から熱が逃げやすいという課題がありました。
✽ 東洋羽毛初の立体キルト「ホワホワキルト」(‘85年)保温性が飛躍的にアップしたものの、マス目が大きすぎて羽毛の偏りが発生してしまいました。
✽ マチ高約8~10㎝に「上下立体ボーダー付きドルミーキルト」(‘91年)‘85年に登場した立体マチキルトの改良型。上下にボーダーという横長のパーツを設け、襟元の物足りなさに対応しました。
✽ 内部が2層構造に「デュアルエアーキルト」(‘02年)ドルミーキルトの内部を2層構造に改良し、マチ高も約12㎝(6㎝+6㎝)にアップ。マチの位置を互い違いにすることで、縫い目から熱が逃げるのを抑えました。
✽ 人間工学的発想「ヴィーナスキルト」(‘04年)人間の体型を考慮したユニークなキルト。体型に沿わせることで、従来品のキルトよりフィット感が向上しました。
✽ 画期的な山型のマチ「マウンテンキルト」(‘05年)デュアルエアーキルトが、2層構造にするために中に布を挟んだことで、重量が増えてしまったことから改良。表裏の縫い目の位置をずらしながら、使用する布の量も減らす画期的なアイデアでした。
羽毛が上質でないとマチの厚みを保てない
現在の掛けふとんはマチがおよそ10㎝もあります。しかし厚みが均等なわけではなく、体が当たる中心部分のマス目は羽毛を多めに入れるなど、充てんする羽毛の分量も細かく計算されています。またどんな幅広のマチも、その厚みを保てなくては意味がありません。重要なのは羽毛の質。たっぷりの空気を抱え込んで、ふっくらと膨らむボリュームのあるダウンを使っていないと、マチの厚みを維持できず、結局ぺたんこになってしまうのです。
一方、肌掛けのような薄手のおふとんは、マチが不要なので現在も「縫いつぶし」で作られています。しかし、縫い目から熱が逃げやすいという課題は残ります。そこで東洋羽毛では、縫い目部分に「Tコートテープ」という特殊なフェルトのテープを挟み込むことで、熱の放出を抑えるとともに、縫い目からの羽毛の飛び出しも防いでいます。
ご紹介してきたように、東洋羽毛の羽毛ふとんは、極めて複雑な内部構造をしています。これは、優れた縫製技術を持つ熟練の職人がいる、弊社でなければ実現不可能と言っていいでしょう。しかも、こうした構造のアイデアの中には、職人が自ら考え出したものもあるのです。開発力と技術力の融合は、この先どんなアイデアや新製品を生み出すでしょうか。ぜひご期待ください!