ネコとの暮らしでは、まずネコの習性をよく理解して
「ネコはトイレは教えなくてもできるし、昼間はほとんど寝ているし、散歩も行かなくて手がかからない、飼いやすい動物」
…そう思っていませんか?
でもネコの本質はちょっと違うようです。
まず知っておいて欲しいのは、ネコは肉食動物である、ということです。肉食動物とは、自分で狩りをして獲物をとって食べる…
つまり、ネコは狩りをする動物だということ。だからたとえば家の中に鳥がいたりするとそれを獲ろうとする。虫が入ってきたらそれを追いかける、そういう習性があるということを知っておかなければいけませんね。
次に知っておきたいのが、ネコは薄明時、つまり朝日が昇りはじめる頃にとても元気になる動物だということ。
よくネコは夜行性といいますが、夜行性というのは夜活動する動物で、ネコは違います。薄明の朝4時とか5時頃にとても活発になる。だからとても早起き。これを知っておかないと、「どうしてこんな早朝に興奮するの?」ってことになってしまうのです。
ネコは単独で行動する動物だということも知っておきましょう。
そう考えると、多頭飼いはネコにとってストレスになることもあるのです。ネコ同士の相性が良ければいいのですが、相性が悪いとさまざまな問題が出てきます。
本来ネコというのは自分のテリトリーがすごく大事な生き物で、家の中でもそのテリトリー争いが起こることがあります。そしてそのテリトリー争いが起きたときに、ネコはお互い引くことはないのでケンカが起きてしまうのです。
今は昔と違って室内だけでネコを飼っている人も多く、するとネコ同士がどうにか折り合いをつけたり、あるいはどうしても仲が悪い場合には別々の部屋で飼っているという人もいます。もし外を自由に行き来しているネコで、帰ってこなくなったりした場合には、自分のテリトリーを追われていなくなってしまったということも考えられるのです。
ネコには母子関係しかないと言われています。
生後6カ月くらいで性成熟すると、母親は子ネコを追い払い、ネコは独り立ちします。だから「みんな仲良く一緒に暮らしましょうね」という考えは本来存在しないのです。
ただ生後4カ月くらいまでの兄弟関係というのは子ネコにとってとても大事で、そこでいろんなことを学んでいきます。
たとえば遊びの中でかんだりかまれたりして噛む加減などを覚えて行くのですが、1カ月や2カ月たらずで兄弟から離されてしまった子ネコはそれを学習していないので、人間のことを本気でかんだりといったトラブルも出てきます。
もしこれからネコを飼いたいと思っている方は、最低3~4カ月までは母ネコと兄弟のもとで育ったネコをもらいうけるようにして欲しいですね。
おもちゃをつかってネコと一緒に遊びましょう
ネコとの暮らしで楽しみのひとつがねこじゃらしを使った遊び。ネコは遊んでくれる飼い主が大好きです。なかには「遊んで~」とおもちゃをくわえて持ってくる子も。
どんなふうに遊んであげるといいのでしょう?
ネコはいろんなものを追いかけてしまう習性があるということは話しました。昔、自由に家の中と外を行き来していたネコは、ネズミを追いかけてその狩りの本能を満たしていましたが、今はほとんどが室内飼いで、しかもごはんは飼い主さんがくれるので、狩りをする必要がなくなりました。そのせいか、ネコ本来のしなやかで美しい体形を維持できずに、肥満傾向のネコが多くなりつつあります。
でもネコ本来の姿を考えると、獲物が来たときにすぐにジャンプしてそれをつかまえることができる状態にしておくことがのぞましいのです。
とくにネコの特徴はあのジャンプ力です。音もたてずにぴょんとタンスの上に登ったり、木にも上る、あの跳躍力こそネコの魅力であり、それができることが健康体であることの証です。だとしたら、それを維持するためにも飼い主さんは家の中でいっぱい遊んであげて欲しいのです。
ネコによって、好きなおもちゃは異なります。
ボールをころがすのが好きなネコもいれば、ネコじゃらしが好きなネコ、ひも状のおもちゃが好きなネコもいます。これは人間と同じでネコの嗜好によりますから、いろいろなおもちゃを試してみて、ネコの本能を満たしてあげてくださいね。
ネコはきれい好き。お部屋の環境を整えましょう
ネコを飼っていると、掃除したばかりのトイレにやってきて、すぐまたそこにオシッコする…と言う経験はありませんか?
きれい好きなネコは、トイレが汚れているとお布団や洗濯物にオシッコしてしまうことも。どんなことに気をつければいいのでしょうか。
ネコは教えなくてもちゃんとトイレができます。
それはネコはとにかく自分の臭いを隠したいという習性があるため。だから砂を掘ってウンチやオシッコを埋めて隠すのです。ネコはもともと砂漠の生き物なので、本当はトイレも砂がいちばんいいと思います。それをガシガシ掘ることがネコの本能を満たすことだから。
そしてきれい好きなので、多頭飼いで他のネコが汚したトイレなどを使うのはイヤなんですね。
そんなときに、洗濯したてのフカフカの洋服や、干したばかりのフワフワの羽毛布団なんかあると「わあ、ここ気持いい」って粗相してしまうということがあるかもしれません。人間だって、フワフワの布団は気持いいですものね。
去勢していない雄のネコはマーキングをすることがあります。マーキングは通常のオシッコとは違い、その臭いはかなりきつく、洗ってもなかなか臭いがとれないことがあります。
でも通常のオシッコであれば、きちんと羽毛布団専用のクリーニングをすれば臭いはとれるはずで。また防水や防ダニ加工のしてあるシーツなどは布目が細かくなっているので、粗相をしたときにすぐ処理をすれば中の布団までオシッコが染み込まなくて済みますから、お布団に粗相をしてしまうようなら、そういった寝具を利用するのも一つの手です。
でも本来、教えなくてもちゃんと砂のあるところでオシッコができる動物ですから、トイレ以外の特定の場所に何度も粗相するということは、トイレのネコ砂が気に入らないとか、もしかしたらネコの数に対してトイレの数が足りないとか、ネコ砂が汚れているとか、何か原因があるはずです。
寒い冬。フカフカお布団でネコと寝るのは至福のとき。気をつけることは?
寒~い冬に、人間より体温の高いネコと一緒にお布団で寝ることは、ネコ好きにとって溜まらないひととき。でもアレルギーなどがある人は一緒に寝ても大丈夫なのでしょうか?
気をつけることは?
ネコアレルギーの人はネコのいる室内にいるだけでくしゃみや鼻水が出たりしますが、その原因となっているのはフケです。
だとしたら、アレルギーを悪化させないためには、ネコをシャンプーして、いつも清潔にしておけばいいのです。外に出さない、ずっと家にいるネコだったら、1週間に1回で十分だと思います。
ただシャンプーのやり方には気をつけて。ネコは体じゅうを自分で舐めてグルーミングをする動物ですから、シャンプーは必ずネコ専用のものを使い、ていねいに洗ってしっかりと流すことが大切です。そういう、ちゃんとした洗い方をすれば大丈夫だと思います。
人間も、赤ちゃんのときから動物がいる環境で育つとアレルギーもひどくならないと言われています。少しずつ動物と触れ合っていることで、症状が改善されるというケースもあります。ただこれも個人差が大きく、もし喘息などの持病を抱えていると発作などが出てしまうと危ないケースもあるので、かかりつけの先生とよく相談しながら上手に付き合っていくことが大事だと思います。
ネコを初めて飼う人に。ペットショップに行く前に…
ペットショップに行くと、生後2~3カ月のかわいい子ネコがいっぱい。でもその一方で、捨て猫があとをたたないことを知っていますか?飼い主さんを求めているネコは、ペットショップ以外にもいっぱいいるのです。
日本では、ペットショップで「猫を飼いたい」と思う人は簡単に手に入れることができますが、イギリスなどの動物愛護の先進国ではペットショップで猫が売られている事はまれで、99%以上がアニマルシェルターなどの保護施設からもらいうけられています。動物愛護は動物の命を救うことだという意識が根付いているのです。
ペットショップにいるネコは、確かに模様がきれいだったり、かわいらしい顔をしていたりします。でもそれらは人間が品種改良をして生まれてきたネコたちです。
今いちばんかわいそうなのがスコティッシュホールドで、耳が折れていて、丸っこい顔で人気があるのですが、でも耳が折れているのは実は軟骨の形成不全からくるのです。そのためにジャンプができなかったり、実は足に痛みがあったりするのです。医者である私たちは、そういうネコを診ているのです。とくに最近はよりきれいな模様を出すために近親交配を繰り返していて、今までにはなかったような疾患をかかえるネコも出ています。
いっぽうで、捨てられたり、震災などで飼い主さんを失ったネコたちがたくさんいます。
保健所では毎日多くのネコたちが殺処分されています。「ネコを飼ってみようかな」と思ったら、ペットショップに行く前に、まず里親募集や保健所などにいるネコに会いにいって欲しいと思います。もしかしたら素敵な出会いがあるかもしれない。そういうところで飼い主さんを待っているネコたちを、ぜひ家族の一員にしてもらえるといいなと思いますね。
- 【プロフィール】 南部 美香/キャットホスピタル院長
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北里大学獣医学科卒業。米カリフォルニア州アーバインの「THE CAT HOSPITAL」で研修を受け、帰国後東京・千駄ヶ谷にネコ専門の動物病院「キャットホスピタル」を開業。主な著書に『0才から2才のネコの育て方』(高橋書店)『猫の医学大百科』(日東書院本社)『痛快!ねこ学』(集英社インターナショナル)など多数。(取材:2012.11)
http://www.cathospital-tokyo.com