カビの発育条件は、1.栄養分、2.酸素、3.温度、4.水分(湿度)の4つです。この条件が満たされた環境が長く続くとカビが発育します。カビは変動の激しい環境が嫌いなんです。
フケや垢、食べ物など有機物はなんでもカビのエサになります。またカビ自体はダニのエサになりますから、カビが増えるとダニも増えるのです。
カビも生き物ですから人間同様に酸素が必要です。また空気中にはカビの胞子が浮遊しています。
カビは0~45℃で発育しますが、適温は20~30℃程度で人間の生活温度と一致しています。
カビは壁や建材から水分を取り込んで生長しますが、空気中の水分も取り込むことができるので、空気中の水分が多い(相対湿度が高い)ほど増殖しやすくなります。 。
相対湿度とカビの関係。
一般的に使われる「湿度」とは「相対湿度」と呼ばれるもので、空気中の水分が飽和状態との時と比べて何パーセントかを表しています。
空気には、温度によって含んでいられる水分の最大量が変動する性質があります。空気を水の入った器に例えると、この最大量が器の大きさになります。
温度が上がると器は大きくなり(空気が含んでいられる水分の最大量が増え)、下がると小さくなるんです。同じ水の量でも、大きな器に入っていれば器の容積に対する水の割合は低くなり(相対湿度が低い)、小さな器に入っていれば割合は高くなります(相対湿度が高い)。
つまり同じ部屋の中でも、温度が低い所は湿度が高くなり、カビが生えやすくなるのです。
たった1日で増殖!?
カビは、寿命も生長速度も環境によって大きく変わってきます。
空気中を漂っているカビの胞子は、適当な場所に定着して菌糸を伸ばしますが、定着した場所が乾燥していればいずれ死滅します。
反対に湿気が多ければその分生長は早く、1日で新たな胞子を作り始める場合もあります。また栄養状態が良ければ、作られる胞子も多くなります。
生長途中は目に見えない!
カビの菌糸というのは白っぽく色がないので、肉眼では見えません。胞子を形成する段階になって、やっと見えるようになってきます。
つまり、目に見える状態のときには、すでに大量の胞子が作られていると思った方がいいのです。
カビに見えないカビ?
浴室などの完全に濡れている所には好湿性カビ、ちょっと湿り気のある所には中湿性カビ、乾いた所には好乾性カビが発生します。
好乾性カビは、相対湿度100%付近では育ちませんが75~95%ではよく育ちます。中でも「ユーロチウム」は、押し入れや室内の壁などに生えますが、薄茶色になったりして汚れと区別がつきにくいんです。一般の方は、汚れているのかな?ホコリかな?と思ってしまっているケースも多いと思います。
抵抗力が落ちている時は注意。
好乾性・好湿性に関係なく、カビであればどの種類でもアレルゲンになると言われています。ただカビは種類が多く、実際にどのカビによってアレルギーが起きているかわかりにくいんです。よほど気になる場合には、血液検査によって調べることもできます。
体が弱っている時に病原性のあるカビを吸ってしまうと、感染症を起こす場合があります。「日和見感染」と言って、他にもお年寄りや小さいお子さんなど、抵抗力の弱い人は注意が必要です。
一方、「カビ毒」には発がん性があるものがあります。カビが作った毒素がついた穀物などを人間が食べ続けてしまった場合に、発がんすることがあるのです。
年間を通して湿度管理を。
カビ対策は乾燥させることが一番。濡れた所は拭き、湿気を取り除く。これは年間を通して変わりません。
カビは環境の変化を嫌いますから、定期的な空気の入れ替えやこまめな掃除も効果的です。秋冬は窓を開けて換気をすればいいのですが、梅雨から夏にかけては外の空気が湿っていますから窓を開けても効果がありません。エアコンと除湿機の併用をおすすめします。
カビは相対湿度65~70%以上で増殖するので、湿度計でチェックしてもいいですが、市販の湿度計は誤差が出るものも多いので、余裕を持って60%以下ぐらいを目安にするといいでしょう。
エアコンの使い方にひと工夫。
冷房を入れると、空気中の水分がエアコン内部で結露を起こすので、エアコン内部は非常にカビが育ちやすい環境になるんです。
そこで最近のエアコンは、カビ予防のため使用後に自動で送風をしたり少し温めたりする乾燥機能がついたものもありますが、ない場合は使用後、送風に切り替えてエアコン自体を乾燥させるといいでしょう。除湿機能を使った場合も、同様にエアコン内部を乾燥させましょう。
お風呂のフタと扉を閉める習慣を。
入浴後、浴室のドアを開けておくと蒸気が他の部屋に流れて、寝室などでカビが発生する原因となります。浴室のドアは閉めて換気扇を回しましょう。また湯船にお湯が入っていると水蒸気が発生するので、フタをしておくこともポイントです。
旅行の前には家全体を乾燥!
人が生活していると水分が発生します。浴室などの水分を残した状態で数日家を留守にすると、その間にドッとカビが生えてしまうことがあります。閉め切った家の中は湿気がこもりやすいですから、旅行などに出かける前は、除湿機などを使ってなるべく室内の水分を取っておくといいですね。
定期的な乾燥で胞子を退治。
寝具は敷きっぱなしにせず、晴れた日にこまめに干すということに限りますね。
もしカビの胞子がついて菌糸を伸ばしていたとしても、定期的に日に当てて乾燥させることで、新たな胞子を出す前に死滅させることができます。
一回で全滅はできなくても、繰り返し干すことで徐々に減らしていけます。人が使用している限り、汗によって水分を供給している状態なので、天日干しができない時はふとん乾燥機なども活用しましょう。
どんな寝具でも同様の維持管理を。
寝具の素材によらず、カビが生えない維持管理をすることが重要です。羽毛も綿も羊毛も有機物なので、カビが生えないということはありません。
特にベッドは敷きっぱなしで、しかもマットレスはなかなか干せないですよね。ベッドそのものも滅多に動かすものではないですから、ベッドの下や周囲はこまめに掃除をしましょう。その点、昔ながらのふとんの上げ下ろしというのは、頻繁にふとんを動かすことになるので、案外効果的なんです。
収納場所の換気も忘れずに。
長期収納する時は、収納場所を乾燥させることも大切です。どんなにふとんを乾燥させても、押し入れが湿っていては収納している間にその湿気がふとんに移ってカビが生えてしまいます。換気を心がけたり、押し入れ用の除湿機を入れたりといった対策が必要です。
「とりあえず掃除機」はNG。拭いて除菌を!
カビを見つけたら、つい掃除機で吸い取りたくなりますが、掃除機は吸った空気を排出する際、カビの胞子まで一緒にまき散らすことになるのでおすすめできません。
室内や押し入れなどに生えたカビは、まずは薄めた漂白剤で拭き取ります。その際、漂白剤の使用上の注意をよく読んで必ず指示に従って使ってください。その後、薬局などで売っている消毒用アルコールで拭きましょう。
寝具はプロに任せる!
寝具に目で確認できるほどのカビが生えてしまった場合は、クリーニングに出してください。表面だけでなく、ふとん内部まで菌糸が伸びている可能性があるので、拭き取れるというものではありません。専門店にお願いして丸洗いしましょう。
- 【プロフィール】 阿部恵子先生/環境生物学研究所所長・農学博士
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兵庫県生まれ。千葉大学園芸学部農芸化学科卒業。東京大学大学院博士課程修了。専門は微生物細胞生理学。1985年酵母菌の形態変化についての研究で、日本農芸化学会研究奨励賞を受賞。「カビセンサー」を用いた、室内のカビ発生可能性が予測できる「カビ指数」を開発し、環境制御によるカビ制御に取り組んでいる。主な著書『住まいQ&A室内汚染とアレルギー』(共著/井上書院)。
(取材:2013.6)
カビセンサー(チップ)
押し入れなど調べたい場所に設置すると、カビが育ちやすい環境であればチップ内の胞子が発芽して菌糸が伸びる。その伸長度から「カビ指数」を算出する(実際の調査では、チップを不織布の袋で覆って使用)。