日によって「今日は良く眠れた」という日と「ゆうべはあまり熟睡できなかった…」という日がありませんか? そして、良く眠れない寝不足の日が続くと心と体に不調をきたすことがありませんか? そもそも、睡眠は私たちの体にどんな影響を及ぼしているのでしょうか? そして良質な睡眠とか、快適な睡眠とは、どういう状態を言うのでしょうか?
人は寝ている間、ずっと同じ状態で眠っているわけではなく、ノンレム睡眠とレム睡眠という二つのサイクルを繰り返しています。
人は眠りにつくとまずこのノンレム睡眠の状態になります。脳が休息している状態で、しばらくすると眠りが深くなっていきます。呼吸は深くなり、脈も少なくなります。いわゆるぐっすりと眠った状態になり、少々のことでは目覚めません。
ノンレム睡眠が終わるとレム睡眠に移行していきます。筋肉の緊張が抑制され、浅めの脳波の状態になっています。眼球がキョロキョロと動いたり、口元がピクピクしたりします。夢はこのレム睡眠のときに見ています。
このレム睡眠のときに起きると、眠気が強く残り、すっきりとした目覚めにはなりません。すっきりと目覚めるには、レム睡眠が終わったあと、浅いノンレム睡眠になった状態のときに起きるのがコツです。
よく言われている90分周期ですが、この周期は日によってかなりばらつきがありますし、日中に太陽の日を浴びてたっぷり運動した日などは最初のノンレム睡眠の時間が長くなる傾向がありますので、90分周期で計算しても必ずすっきり目覚めるとは限りません。
ではどうすればいいかというと、起きる時間をなるべく一定にすることです。毎日同じ時間に起きることで体は学習します。休日もあまり遅くまで寝ていないで、できるだけ平日と同じ時間に起きるようにします。休日の朝、起きられないのは平日の睡眠が足りていない証拠ですから、平日の睡眠を見直し、平日は今までより30分、それが無理なら15分でもいいから早く寝るようにします。一定のリズムを作ることで昼間の覚醒がしっかりし、夜もぐっすり眠れるようになるのです。
良質な睡眠をなぜとらなくてはいけないかというと、疲れた心と体を修復するのには睡眠以外にはないからです。体の具合が悪いときには寝て治します。脳も一緒で、脳は起きているあいだ、ずっとストレスを受けています。これを解消するには寝て、脳を休めるしかないのです。
ところが現代社会はストレス社会とも言われ、私たちはさまざまなストレスにさらされて生活しています。このストレスを解消するにはしっかりと眠ることが大事なのですが、ストレスや心配事があると眠れなくなってしまうのです。眠くても眠れない、そのため睡眠の質が悪くなって、日中に強い眠けが襲ってきます。またメンタルにも悪影響を及ぼし、場合によっては不眠に陥ってしまうのです。
不眠状態が長く続くと、良質な睡眠がとれている人に比べて、うつ症状になる傾向が2倍になるというデータがあります。それだけ睡眠はメンタルに悪影響を及ぼすのです。ですから、眠れない状態が続くようなら、注意が必要です。
ストレス社会ともいわれる現代社会では、不眠に悩む人が増えています。
では、どうしたら快適な睡眠を得ることができるのでしょうか?
大事なのは自分の睡眠をちゃんと把握することです。そのためには、まず睡眠を中心とした睡眠日記をつけてみることです。
起床時間と就寝時間、昼間眠くなった時間、昼寝をした時間などを記録しましょう。そして次のようなことをチェックしてみます。
・最適な睡眠時間は7時間です。足りていますか?
・起床時間、就寝時間は一定ですか?不規則になっていませんか?
良質な睡眠を得るのに必要な時間は7時間です。24時間のうち7時間は眠ることです。そしてできれば夜まとめて眠れるようにしましょう。毎日同じ時間に規則正しく寝ることで、成長ホルモンやメラトニンが正常に分泌されます。
睡眠日記をつけて、時間が足りなかったり就寝時間が不規則だったりしたら、それを改善するように努力しましょう。そして、できれば睡眠について、自分でも勉強をして欲しいと思います。睡眠についての本も出ていますし、講習会などもあります。
また寝具にもこだわって欲しいと思います。1日24時間のうち、寝ている時間は7時間。人生のうち約三分の一は寝ているのです。良質で快適な睡眠をとることが生活のパフォーマンスをどれだけアップさせるかを考えたら、やはり自分に合った枕や布団を使って欲しいですね。できれば快眠のための科学的なアドバイスを受けられる会社やお店で、睡眠についていろいろ相談してみるといいと思います。
・規則正しい睡眠をとるようにしましょう
・目覚めたあと、太陽の光を30分以上浴びるようにしましょう
・朝、晩の食事はできるだけ決まった時間にとりましょう
・夕方に簡単な体操やストレッチ、散歩などの軽い有酸素運動を30分程度しましょう
・寝る前に、ぬるめのお風呂にしっかりつかりましょう
・ハーブティーやアロマの香りで心身をリラックスさせましょう
・寝る前に心が落ち着き、眠りを誘ってくれる音楽を聴きましょう
・寝室やリビングルームの照明の明るさを落として控えめにしましょう
・熱いお風呂に入る
・コーヒーや紅茶などカフェインの入った飲み物を飲む
・寝る直前に食事をとる、または極端な空腹状態で寝る
・眠れないからとアルコールを飲む
・タバコを吸う
・激しい運動をする
・直前までテレビを見たりパソコンをする
旧厚生省が全国の3~99歳の約6500人の外来患者さんを対象に行なった睡眠に関する調査では、5人に1人が睡眠に関して、何らかの悩みを抱えていることがわかりました。いったい何が原因なのでしょうか。
前にも述べたようにストレスを抱える人が増えていること、そして小さいうちから夜遅くまで塾に通ったり、仕事が忙しくて夜遅くまで残業をしていたり、あるいは夜型の都市型生活などのせいで、不眠に悩む人は増えています。
それ以外にも、年齢を重ねると不眠に悩む人が増えていきます。女性の場合は妊娠中に不眠に悩む人が増え、特に妊娠後期になると約3割の人が不眠を訴えます。また55歳を過ぎて更年期に入ってくると不眠の悩みが多くなります。原因としては更年期障害によるもの、ストレスによるもの、精神的なものに分類されていますが発症原因についてはよくわかっていません。
また高齢者は良く眠れないと言いますが、そのわりには起きたときはあまり眠気を訴えない。それは若いときに比べて感受性が鈍くなるからです。そのため、若いときほど眠気を感じないのですが、横になると意外とすぐに眠ってしまうことがあります。眠気には2種類あって、心理的なものと生理的なものがあります。「眠い」と感じるのは心理的な眠気で、これは感受性の問題なのです。だから実際にはしっかりと睡眠はとれているのに、心理的に「眠れていない」と感じてしまうことがあるのです。
また年齢を重ねると長い時間眠れない、眠りが浅い、という悩みもよく聞きます。これは体温振幅のメリハリの低下が原因になっていることも。若い人は運動量が多いので、寝ついてからの体温の低下が早く、ぐっすりと眠れるのです。高齢者は運動量が少なく、加齢で覚醒と睡眠の機能が劣化していくのと、体温振幅のメリハリが少ないせいで睡眠中の深部体温も下がりにくく、そのせいで睡眠が浅くなり、ちょっとした刺激で目がさめやすいということがあります。人は体温の下がり具合で睡眠の長さが決まっていきます。体温が低下しているときに寝ると長く眠れるし、体温の上昇期に眠りにつくと眠りが短くなったり浅くなったりします。
お手洗い覚醒もあります。若い人の場合、ぐっすりと寝てしまうので膀胱に尿がたまっても我慢ができますが、高齢者の場合はそれが刺激となって目が覚めてしまうということがあります。
寝室の環境にも左右されます。音や朝の太陽の光、室温などといった環境を整えることも大事です。
最近よく聞くようになった「むずむず脚症候群」。どんな状態になるのでしょうか?
また予防法や対策はあるのでしょうか?
むずむず脚症候群は、寝入りばなに足がムズムズしたり、虫がはっているような感じがしてじっとしていられない症状のことで、入眠障害が起きるために不眠の原因になります。気をつけたいのは、この病気に一般の睡眠導入剤は効果がないということです。
また本人には自覚がないことも多く、その場合は家族が、寝ているのに足がピクピクしたり、常に動かしていることで「おかしい」と気づくようです。
むずむず脚症候群の場合、同時に足がぴくぴくと動く睡眠時四肢運動異常を併発することが多く、入眠障害と熟睡障害が起きます。
患者は55歳を過ぎた頃から増えてきます。あるいは妊娠中に鉄が欠乏すると起こったり、透析の患者さんにも2割ほどみられる、割とポピュラーな症状です。
むずむず脚症候群といわれたら、まず鉄が欠乏している人は鉄を摂取して吸収を良くするために軽い運動をします。カフェインの摂取も制限します。あとは飲酒とタバコもやめると症状はかなり軽減します。
「寝なくても死なない」などとよくいいますが、不眠の人にとって、その悩みは深刻です。深刻な不眠症になる前に「最近眠れてないな」と感じたら、生活をちょっと振り返ってみましょう。そして睡眠について自分なりに勉強し、工夫して快眠を手に入れましょう。
- 【プロフィール】 白川修一郎先生/睡眠評価研究機構 代表・医学博士
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睡眠評価研究機構代表、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所客員研究員。東京都神経科学総合研究所客員研究員。江戸川大学睡眠研究所客員教授。日本睡眠改善協議会常務理事・日本睡眠学会理事。主な著書に『睡眠とメンタルヘルス‐睡眠科学への理解を深める‐』(ゆまに書房/共著)など。
(取材:2013.2)