日本には四季があり、折々に美しい景色を楽しむことができます。しかし季節の移り変わりは、時に体調不良の原因にもなるものです。気候の変化に伴う疲れなどのケアには、やはり睡眠が欠かせません。今回は、シーズン別の睡眠についてのお話です。
解説者プロフィール
ぐっすり睡眠博士こと 金子 勝明
東洋羽毛工業株式会社 営業企画課所属
睡眠健康指導士、睡眠環境・寝具指導士の資格を持ち、商品開発、営業企画、睡眠の研究など幅広く手掛けるなんでも系社員!睡眠講座の要請を受け、講師として全国各地を飛び回り、自身睡眠不足になりながらも、日夜睡眠の大切さを訴える。
猛暑の夏が過ぎ、やっと過ごしやすい秋を迎えたのに、なんとなく元気が出ない、眠っているのに寝た気がしないと感じることがあると思います。
実は、クマなどが寒く食料が減る冬に向けて冬眠の準備を始めるように、人間も冬に向けて不活発になり、エネルギーの消耗を防ごうとする機能が備わっているのだそうです。この働きは日照時間と深く関係していて、日が短くなると休息つまり睡眠時間が長くなり、春から夏に向けて今度は短くなります。
秋の夜長になんとなく物思いにふけってしまう…そんなうつうつとした具合が、実は”冬眠準備”ともいえる状態だったとは驚きです。
こうした季節性の変化は、うつ病につながることもあるようです。冬場に晴れる日が少ない地域の方などは、積極的に日光に当たるのもいいでしょう。ですがまずは、必要な睡眠時間は季節によって変わることを知って、気にしすぎないことも大切です。
みなさんはどんな寝具を使っていますか? 冬場は何枚も掛けふとんを重ねたり、厚着をしたりしていませんか?
人は一晩に20~30回も寝返りをします。寝返りは、血液の循環を促し床ずれを防ぐとともに、レム睡眠とノンレム睡眠を切り替えるスイッチの役割も果たしていることから、きちんと寝返りが打てないと睡眠の質が低下してしまいます。重すぎる掛けふとんは、寝返りの妨げになるので注意しましょう。
一方、私たちは冬でも睡眠中にコップ一杯程度の汗をかきます。 しかし、汗をかいても厚着によって熱が発散できないと、体温が適切に下がらなくなってしまいます。また、かいた汗をそのままにしておくと、身体を冷やすことにもなります。汗をかきやすい夏だけでなく、冬も吸汗性や速乾性のある素材の寝巻きを選ぶといいでしょう。
一般的に睡眠に適した環境は、室温26℃、湿度50~60%、寝具内温度は33℃です。冬場は電気毛布を利用されている方も多いと思いますが、タイマーを利用して途中で切るようにしましょう。寝具内が暑くなりすぎると室温との差が広がり、起き上がった時に血圧の上昇や循環器系疾患を引き起こすリスクが高まります。尿意などで夜中に目を覚ましやすい高齢者は、特に用心してください。
その点、湯たんぽは、温まりすぎないのでおすすめです。足元に入れるのもいいですが、お尻や太ももなどの太い血管が通っている場所を温めるとより効果的です。
湯たんぽに直接触れると低温やけどを起こす心配があるので、寝る前にお尻が当たる辺りを温めておいて、寝る時は足元に移動させてもいいでしょう。
春眠不覚暁(春の眠りは心地よく、朝が来たのもわからない)
処処聞啼鳥(今はあちこちから鳥のさえずりが聞こえる)
夜来風雨声(昨夜は雨風の音がしていたけれど)
花落知多少(どれほどの花が散ってしまったことだろう)
孟浩然(もうこうねん)の有名な詩の一節ですね。
花咲く季節の気持ちよさを綴っていますが、現代人にとって春は心地よさと同時に新生活が始まる緊張の季節でもあります。進学や就職による環境の変化は、五月病などの原因にもなります。
そこでコルチゾールというホルモンに注目です。このホルモンは、目覚める前の明け方頃に分泌量が最大になり、身体を睡眠モードから活動モードに切り替える働きがあります。
またストレスに対抗する作用もあると言われています。
医学博士の坪田聡氏は、著書『睡眠は50歳から「老化」する』の中でコルチゾールの効果を活かすには二度寝をして、しかも楽しむといいとお書きになっています。「7時に起きなければいけないとしたら、6時50分に目覚まし時計を鳴らして、10分間だけ二度寝を楽しむ」のだそうです。身体に活力湧いてくるそうなので、ぜひ参考にしてみてください。
近年の夏の暑さには閉口しますね。屋外と室内の温度差が15℃を超えるケースもあり、日常生活を送るだけでも疲れがたまっていきます。
ところで、熱帯夜に暑いからと露出の多い格好で寝ていませんか? 汗を吸ってくれるものがないとベタついて、かえって不快感が続きます。また眠ると体温が下がりますから、寝冷えや夏風邪を防ぐためにもパジャマなどの着用をおすすめします。エアコンや扇風機は一晩中使わずに、2~3時間で切れるようにタイマーをセットし、風が直接身体に当たって体温を奪われないように、ベッドの周囲の空気が混ざるような風向きにしましょう。
入浴や足湯で足先を温め、氷枕などを使って眠る、「頭寒足熱」もおすすめです。入浴や足湯は眠る2時間ほど前までに済ませておくと、就寝時にちょうど体温が下がってきて眠気がやってきます。眠る直前だと、体温が上がりきって寝付きを悪くしてしまうので逆効果です。入浴で汗をかく習慣を付けることは、夏バテ予防にも効果的ですので、汗をかきにくい方は夏こそ湯船に浸かって温まりましょう。入浴前後は、水分をしっかり補給することもお忘れなく!
[参考文献]
・西多昌規『脳と体の疲れをとる仮眠術』青春出版社、2014
・大塚邦明『眠りと体内時計を科学する』春秋社、2014
・古賀良彦『睡眠と脳の科学』詳伝社、2014/『熟睡する技術』メディアファクトリー、2013
・内山 真『睡眠のはなし』中公新書、2014
・福田千晶(監修)『ホントはコワイ夏バテ51の対策』日東書院、2013
・坪田 聡『睡眠は50歳から「老化」する』大和書房、2013/『病気にならない睡眠コーチング』青春出版社、2001
・青木 晃『いい睡眠があなたを10歳若くする』青春出版社、2012
・蓮村 誠『ダメな睡眠、いい睡眠』PHP研究所、2010
- 第 1 回 「よく眠れる食べ物と寝つきにくくなる食べ物」
- 第 2 回 「寝つきの悪さの原因と対策」
- 第 3 回 「睡眠不足が脳と体の成長に与える影響について」
- 第 4 回 「睡眠とうつ病の関係性とその対策について」
- 第 5 回 「睡眠で分かるカラダ不調のサイン」
- 第 6 回 「短期的な睡眠不足を乗り切る裏ワザ」
- 第 7 回 「欧米と日本の睡眠習慣の違い」
- 第 8 回 「シーズン別 カラダの疲れをとる睡眠のひと工夫」
- 第 9 回 「寝つきと寝起きのひと工夫」
- 第 10 回 「いびきが起きる原因と解消法」
- 第 11 回 「寝坊の原因と解消法」
- 第 12 回 「赤ちゃんやお子さんのより良い睡眠のために」
- 第 13 回 「ショートスリーパーとロングスリーパーのメカニズム」
- 第 14 回 「目覚めに体がイタイのはこんな理由かも?」
- 第 15 回 「良い目覚めと悪い目覚めの違い」
- 第 16 回 「仮眠や昼寝を効率よく取るコツ」
- 第 17 回 「睡眠不足のリスク」
- 第 18 回 「睡眠障害とは?」
- 第 19 回 「健康習慣をおさらいしよう!」